電流 (A) ×電圧 (V) は、なぜワット(W)なのか。What is ワット

電子レンジを使っていたときに、ふとこの記事を書こうと思い立った。

電子レンジの出力は、ワット (W) として表される。

コンビニの電子レンジなら1500 W。

数字が大きいと「強い」電子レンジであることが直観的にわかる。そして、強いからこそ、温めるのに必要な時間が短時間で済む。

一方で、家庭用の電子レンジなら、500 W、600 W とかその程度。

数字を見るのが好きな人なら、コンビニ弁当の温め時間を見て、「電子レンジのワットが2倍になれば、必要な時間が半分に減る」みたいな関係に気づいている人もいるはず。

この記事を読み終わる頃には、上記のような「コンビニ弁当温め時間の法則」の理由を人に説明できるようになるはず。

 

「電流かける電圧イコール、ワット(出力)」「I × V = W 」という関係式を始めて習ったのは、中学の時だ。

僕自身も。中学で習った時はとりあえず詰め込んで覚えただけで、その意味を全く理解できなかった。

そもそも「電流」と「電圧」の違いすらよく分からないのに、それらをかけ合わせることで「ワット(出力)」と呼ばれるよくわからない概念が登場する。

 

理系として大学に進み、物理系の学科で実験や授業をいくつか経験した今だからこそ、これらを見通しよく理解できるようになった。

中学生の時の自分に分かりやすく伝えるつもりで、この文章を書いていきたい。

単位は、掛け算と割り算ができる

まず、「単位同士はかけ算・割り算できる」という前提に触れる。

たとえば、時速は「 m / s 」で表される。この単位は、1秒当たり何メートル進むかということを表す。

小学校の時、詰込み的 に倣った、「速さ = 距離 ÷ 時間、距離  = 速さ × 時間」みたいな式を思い出すと、

距離 [m]= 速さ [m/s] × 時間(秒)[s] となる。ここで、カッコ内に示した単位について、

[m] = [m/s] × [s] という、単純な分数のかけ算が成り立っている。

これが、単位同士のかけ算が成り立つということだ。

速さ [m/s] = 距離 [m]  ÷ 時間(秒)[s] という割り算も成り立っている。(割り算は分数として表される)

どれか一つの式を覚えれば、それぞれの単位の式を変形することで、時間 = 距離 ÷ 時間 も含めた全部の関係性が導かれる。

「単位同士はかけ算・割り算できる」ということを覚えておけば、小学校の時みたいに速さや割合の式を詰め込んで覚える必要がなくなる。

 

ここで説明したことを物理の専門的な言葉でシンプルに言えば、「物理量の次元は式の両辺で等しい」ということになる。

電流と電圧の違い

次に、「電流」と「電圧」の違いをざっくり説明する。

我々が普段「電気」と呼んでいるものは、電流に当たる。「電気」は流れるものだし、漢字を考えれればなんとなくわかる。

電圧は、「電流(電気)を流そうとする強さ」を表す量だ。そして、電圧が生じたことによって流れた電気の量を表すのが「電流」だ。

「電圧をかけたことで。電流が流れる」という因果関係だ。

電圧と電流の関係は、「流れる水」に例えられることが多い。

ある斜面を用意して、高いところから低いところに水を流すことを考える。

電圧は斜面の「高低差」に相当し、電流は流れる水の量に相当する。

ここでも、「高低差(電圧)が存在することで、水(電流)が流れる」という因果関係が成り立っている。

高低差が高い(=電圧が大きい)と、水が勢いよくたくさん流れる(=電流が大きくなる)ということは直観的にわかる。

電流と電圧の単位、そしてワットへ

電流は、「流れる水の量」と説明した。

常に同じ条件で流れる水の量を比較するには、速度と同じで比べる時間を一定にそろえて、その時間の間に流れる水の量を比較すればよい。

よって、電流は「一定時間(1秒)あたりに流れる電気の量」を表す。

発展的な内容になるが、電気の量を表す単位はクーロン[C] である。水 1L に相当する電気の量が 1クーロン(1C ) であるという程度の理解でいい。

よって、電流の単位である「アンペア」を分解すると、1秒間あたりの電気の量(クーロン)、すなわち「C / s」という単位になる。

電圧は「川の高さ」と説明した。だから電圧の単位「ボルト」も、 1 V は川の高低差 1m という風に思っておけばいい。

アンペアは分解できたが、中学生に説明する上ではボルトはこれ以上分解しようがない。

 

以上から、電流(アンペア) × 電圧 (ボルト)= [C / s] ×[V] =[C×V / s]

ここで、単位の掛け算と、掛け算の順位の入れ替えを使った。

次に、C×V(クーロン × ボルト) が表していることについて説明する。

結論から言うと、C×V(クーロン × ボルト) = エネルギー (単位は J : ジュール) だ。

1クーロンの電気を水 1L、1V の電圧を 高さ 1 m と考えると、C×V(クーロン × ボルト)は、1m の高さに 1L の水があるということになる。

高いところにある水は、物を動かすためのエネルギーに変えられる。また、水力発電をすれば電気のエネルギーに変えられる。

高いところにある水を電気に変え、さらに熱のエネルギーに変えることだってできる。

「エネルギー」とは、電気や熱や運動など、一見異なるもの同士を比較するための指標である。

同じ高さでも、水の量が多いほど物を動かせるエネルギーが大きい。

同じ水の量でも、高さが高いほど物を動かせるエネルギーが大きい。

そして、「どのくらい他のものを動かせる可能性があるのか?」ということを表すのが「エネルギー(エネルギー量)」であり、その単位は「ジュール」である。

だから、アンペア × ボルト の式の続きを考えると、

電流(アンペア) × 電圧 (ボルト)= [C / s] ×[V] = [C×V / s] = [J / s]

となる。

一方で、電流(アンペア) × 電圧 (ボルト)= 「ワット」だから、「ワット」という単位は「J / s(ジュール毎秒)」にほかならない。

すなわち、W は、「単位時間あたりのエネルギー量(ジュール毎秒)」を表しているのである。

電子レンジの温め時間の法則

電子レンジの種類が違っても、同じだけのエネルギーを与えれば、最終的には目標とする温かさまでお弁当を温めることができる。

(温める前の温度はどの場合でも同じと考える)

すわなち、電子レンジの出力(ワット)が違えば、時間 (s) を調整することで、最終的に同じだけのエネルギー(J:ジュール)を与えればよい。

ここで、 ワット(出力) [W] × 時間[s] = [J/s} × [s] = エネルギー [J]

という単位のかけ算が成り立つ。

[W] × [s] = [J]  なので、Jを一定とすれば、ワットと時間は反比例の関係になる。

だからこそ、ワットと時間の積は常に一定であるし、電子レンジのワットが半分になれば、必要時間が2倍になるのである。

おまけ:「抵抗」あるいは「オームの法則」について

さきほど、電圧は水を流す高低差で、電流は水の流れの量と説明した。

ここでは考えていないことがある。それは、「水が流れる川の幅」だ。

同じ高低差から水を流しても、川の幅が広ければたくさん水が流れるし、狭ければあまり流れない。

だからこそ、1V の電圧をかけても、必ずしもいつも 1A の電流が流れるわけじゃない。

ここで「川の幅」を表す量が、電気の世界では「オーム(Ω)」という単位だ。

「オームは電流の流れにくさ」を表すと習ったが、オームという単位の正体を自分自身は中学のころあんまり理解できていなかった。

今ならこう説明する。「1Ωは、1Aの電流を流すのに必要な電圧を表す」と。

すなわち、オームの単位の正体は [Ω] = [V / A] になる。

オームに電流[A] をかければ、単位のかけ算から電圧が導かれる。これが、オームの法則「V = Ω × I」または「V = RI 」だ。

この式さえ覚えておけば、あとは単位のかけ算や割り算からそれぞれの値を自由自在に求められる。